どれだけ心配したと思ってる 霧響はもう、お兄ちゃんであって欲しい訳です。弟溺愛の逝っちゃってるお兄ちゃんで、弟も煩いなぁとか思いつつ大好きな、仲良し兄弟であって欲しい。パラレルならでは!を主張。 そして、巻き込まれ大庵。 『私の可愛い響也をどうしたんですか!!』 電話口からつんざく声に、大庵は絶句した。寝転がっていた自室のベッドから、思いきりよく転げ落ちた。床に散らばった分厚い雑誌に強か腰を打ち付け悶絶する。 『返事はどうしました!』 「え、やあの? 今日はバンドの練習もしてないし〜俺知らないっすよ」 『嘘をつおっしゃい! だったら、どうして響也が帰って来ないんですか!』 劈く携帯を耳から引き剥がして、大庵の目は虚ろになった。ツッコミたい事は沢山ある。まず、あいつの兄貴がどうして俺の携帯番号を知ってるんだ? それに、まだ18時じゃねぇか。高校生が帰って来なくて騒ぐ時間帯じゃねぇし、今時小学生だって騒がねぇ。 あ〜こんな保護者が憑いてるんだったら、牙琉に声掛けなきゃ良かったな。でもなぁ、あいつの歌、ホント最高なんだよなぁ。 すっかりと耳から先が現実逃避をしてしまった大庵の様子など、全く知らない霧人は変わらぬ様子で怒鳴り散らしている。 『だいたい、貴方がバンドなんかに誘うから可愛い響也に目を付ける輩が出るんですよ! この間だって、帰宅するまで誰かに尾行されてたような気がすると言ってましたし、万が一あの子に何かあったら…。』 ブツッ。 「…それを早く言えっての。」 椅子に掛けてあったブレザーを羽織り慌てて家を飛び出した。 アマチュアとはいえ、バンドなんてやってると熱狂的なファンも出てくる。ストーカー紛いの輩にまとわりつかれて困ってるなんて話も珍しくはない。 まして、響也に魅力がないなどと、大庵も到底思ってはいない。男女問わず人気がある上に、天然の気があって何処か無防備だ。 通学路を往復した後は、自分が知っている限り、響也が立ち寄りそうなショップを流して歩いた。ただの憶測が、本気の不安へと姿を変えた頃にようやく、店から出てくる響也の姿を見つけた。 随分と日は暮れている。結構な時間、走り回っていたのだと思えば恨みがましい言葉も口をついた。 「どれだけ心配したと思ってる…。」 肩で息をする大庵を眺めながら、響也は呆れた顔で息を吐いた。 「兄貴かっつうの。いまさら迷子になんかなるかよ。」 …俺はそんな心配はしてねぇよ。 腹の中で毒づいてから、奴の腕の中でへけへけと尻尾を振っている真ん丸い生き物を指さす。視線で、これは何だと聞いてやる。 途端、響也は口をへにした。視線を彷徨わせた挙げ句に「拾った。」 どう見ても、血統書付の子犬で、お前が出て来たのペットショップだろうが。 上目使いに大庵を睨み付けて、頬を染める。 なに可愛い顔してやがる。キスするぞ。 「………だから、拾ったって言ってるだろ」 「あ〜もう、わかった。わかった。」 ショーウインドウに並んでいた子犬がどうしても欲しくて、今まで眺めていやがったな。 ふうと、大庵は溜息を付いた。まぁ、こいつに何かあった訳ではないのだからヨシとするさ。 「そいつ、連れてさっさと家に帰れ。お前の兄貴がエライ剣幕で心配してたぞ。」 「門限が5時とか、やってられないっての。」 「知らねぇよ、そんな事。早くかえ…」 犬を抱いていない方の手で、がっしりと大庵の腕を掴んだ。 「この子飼って貰えるように、一緒に兄貴にお願いしておくれよ。」 なんで俺が! 叫びだしたい気持ちは、必殺お強請り攻撃で封じられる。 「上手くいったら、お礼するからさ」 そんな言葉に乗ってしまう自分が恨めしいが、断る理由など何処にもない。 「飛び切りの礼を頂くからな。」 「うん、何でも云うこと聞くからね。」 …だぁかぁらぁ、お前は天然なんだよ。 鼻の中に込み上げてくる熱き血潮に、己の若さを実感した大庵だった。 「お前の兄貴がストーカーって言ってたんで心配したんだよ。」 「あれは、兄貴の事を言ったの。学校から家までついてくるから。」 大響でも、王響でも、成響でも最大の障害はお兄ちゃんという状況が好きです♪ content/ |